2017年10月13日から16日に、三重県津市のギャラリーVolvoxにて、「左官フォーラムみえ2017」に先立つ特別展として「左官×実験」と題した展示を開催しました。
リンク:「左官×実験」
リンク:「左官フォーラムみえ2017 土の壁に学び、遊ぶ」
ギャラリーには、伊勢型紙や彫刻と左官による実験的な作品とともに、左官道具や、土壁を展示しました。「左官」がテーマという異色の展示であるため、一般の方にどのように受け入れていただけるか心配な中での開催でした。展示の様子を主催者の代表である杉本が振り返ります。

左官を知らない世代に向けて

少しでも左官のことを知って欲しいという思いから、今回の展示と12月の左官フォーラムを企画しました。30代以下の若い世代は、左官がどんな技術か知らないそうです。左官は素晴らしい、後世に残して欲しい技術なんだと、まず左官のことを知って頂くことから始めようと思いました。

企画展では、現物から何かを感じて欲しくて、道具や土壁を展示しました。さらに、左官の可能性を探る新しい試みとして、三重の伝統文化を代表する伊勢型紙の小林満さんと三重県在住の彫刻家・中谷ミチコさんと一緒に「左官×実験」というコラボレーションをさせて頂きました。

300名の来場者

一般の方は左官について興味あるのかな、敷居が高いかなと思いきや、蓋を開けてみたら記帳して頂いただけで230人ほど、おそらく300人くらいの方々に来て頂けました。皆さん、30分から1時間くらい、じっくりと観ていってくださいました。

印象に残る出来事がありました。展示物を載せるザラザラの漆喰の台の前でエステティシャンのお客さんが、「触っていると気持ちいいんですよ」って言ってくれて。体感的な部分がいいんでしょうね。漆喰は、抗菌性・消臭性があり、体に悪くない。呼吸する材料というのが、左官の材料が他の材料と違う良さだと改めて感じることができました。

遊びから発展して

左官と彫刻、伊勢型紙と彫刻、コラボレーションしたらどんなものが出来るんでしょうね、と今回のプロジェクトが始まりました。左官だけだと壁面だから面白くないんです。そこにアート専門の人が入る。同じ素材を使っているのに全然違うものが出来る。まさに実験でした。

例えば、中谷さんとコラボした彫刻について。中谷さんは元々石膏とか粘土の世界の人で、こちらは、漆喰やセメントの世界の人間です。「漆喰で型抜いたらどうなん? セメントで抜いたらどうなん?」って色々試してみました。中谷さんが使ったことのない素材をこっちが提案して、それをまた中谷さんが発展させて。試して、遊んで。その中から今回の様々な作品が生まれました。

左官に安らぎを感じる時代

左官の良いところは、塗った時が一番ではないところです。むしろ、10年後の方がいい。茶室が典型です。茶室の壁を塗った時は、聚落壁風のクロスと見た目は変わりません。時間が経って来ると、藁がぱっぱっと浮き出て来て、土のところだけが黒く残ります。散りのところは白くなる。時間が経つごとに面白くなる。それを手入れしていくことで、長持ちするし味わいが出てきます。

ヨーロッパは、作ったものを大事にするから最初から良いものを作ります。最近の日本は、どんどん新しいものと取り替えて新製品出して…というシステムに慣れてしまっている。新しくてもすぐ時代遅れになる。「本当はそれおかしいんじゃないの?」と思います。

土に意識が戻ってきているのもそのせいでしょう。「そんなにせかせかせんでもええやないか。もうちょっとゆっくり歩いたら?」という風潮を感じます。その風潮に付随する材料として、体にもやさしい素材である左官が見直される傾向にある。デジタルの時代だから、アナログに安らぎを感じる。ほっこりしたい。そんな時代なんでしょう。

意外と好評だったのが荒壁でした。本来、荒壁は下地材だけど、荒壁のまま見せても面白いし、土で仕上げて壁が割れていくというのも、デザイン的に面白い。荒壁は古い家の象徴だけれど、お客さんがそれに現代的な価値を見つけてもらえたことが印象に残っています。

 

もっと左官で面白いことを

今回の展示会で良かったのは、一般のお客さんにたくさん来ていただいたことです。左官を前面に打ち出して、あれだけお客さんが来てくれたのは、本当に嬉しかったし、驚きでした。一般の方も、意外に左官の仕事を求めているのがわかりました。何か左官が必要な問題があれば、一緒に解決していきたいと考えています。

新しいアイディアで、もっと左官は面白くなりそうな予感がします。今後も、今回出会った仲間やお客さんたちと、左官の可能性を見つけていきたいです。

ご来場いただいた皆さま、本当にありがとうございました。

撮影:松原豊